特別寄稿(平成30年7月1日発行練馬区保護司会報第239号に掲載)

非行少年と再犯防止

後藤 弘子(第5分区保護司)                 千葉大学大学院専門法務研究科教授

 

 再犯防止において軽視される非行少年

  再犯の防止が刑事政策の課題になってから久しい。2009年に、法務総合研究所の調査によって、3割の再犯者によって、6割の犯罪が行われることが明らかになってから、2012年には、犯罪対策閣僚会議が「再犯防止に向けた総合対策」(以下総合対策)を策定し、「出所等をした年を含む2年間における刑務所等に再入所する者の割合」を2021年までに「20%以上減少させる」という数値目標を立てた。さらに、「宣言:犯罪に戻らない・戻さない~立ち直りをみんなで支える明るい社会~」(2014年)では、2020年までに協力雇用主を3倍にする、「帰るべき場所がないまま刑務所から社会に戻る者の数を3割以上減少させる」とした。 

 2016年に、犯罪対策閣僚会議は、薬物自己使用者・高齢犯罪者・障がいのある者に対する「再犯防止緊急対策」を打ち出した。そして、同じ年、国会で、「再犯の防止等の推進に関する法律」(以下再犯防止推進法)が成立、201712月には、再犯防止推進計画(以下再犯防止計画)がまとめられ、より総合的具体的な再犯防止策が実施されている。 

 一方で、刑法認知件数は、戦後最低を記録し、検挙される非行少年も劇的に減少している。非行少年数の減少は、実際の人口減少を上回るもので、今後も減少を続けていくことは間違いがない。その影響は、少年院が毎年のように閉鎖されるという現象にも表れている。特に東北はその傾向が激しく、3つあった男子少年院が、ここ数年で相次いで閉鎖され(青森少年院、置賜学園)、残るは仙台にある東北少年院のみとなっている。当然ながら、少年鑑別所に入所する少年も減っており、少年が一人もいない日がある少年鑑別所が東北や日本海側を中心に多くなっている。 

 最新の再犯防止計画においても、非行少年対策は含まれているものの、中心として位置づけられているのは、覚せい剤自己使用者と高齢者・障がい者であることは明らかで、関連罪名は、覚せい剤取締法違反と窃盗となっている。窃盗は少年にもいるが、覚せい剤事犯は男子少年にはほとんどおらず、しかも、覚せい剤事犯は減少している。 

 再犯防止対策に限らず、現在の日本の施策の多くは高齢者が中心となっている。もちろんそれも必要なことであるが、「子ども」に関しては、選挙権もないこともあって、子どもの声を聴く、という習慣や発想も行政や立法にない。1994年に日本も批准した子どもの権利条約12条には、子どもの意見表明権が規定されており、子どもには「自由に自分の意見を表明すること」、そして、その表明された意見は、「年齢及び成熟度に従って相応に考慮される」ことが要求されている。 

 そもそも「軽視されている」子どもたちの存在や声が、数自体が少なくなることで、ほとんど行政に届かなくなる。そんな状況のなか、再犯防止計画では、どのような非行少年対策が取られているのだろうか。

  

「居場所」と「出番」について

  再犯防止計画において、非行少年に関して特別に必要だとされていることについて、概観してみよう。なお、ほとんどの施策について、当然非行少年もその対象に含まれていることは言うまでもないが、今回は再犯防止計画が非行少年に対してどのようなまなざしを向けているのかを見ていくために、非行少年に特化した施策だけを見ていきたい。 

 再犯防止のためには、「居場所」と「出番」が必要であることは、2014年の総合対策で改めて明確に意識され、以後、この2つの言葉は、再犯防止対策の中心となった。再犯防止計画でも、当然ながら「居場所」と「出番」の確保は中心的な施策として位置づけられている。非行少年に対しては、少年サポートセンター等警察関係機関が「就労を希望する少年に対する立ち直り支援」に関して、好事例等を警察庁が各都道府県警察に紹介、指導を行うとなっている。 

 厚労省管轄の地域若者サポートステーションでは、「働くことに悩みを抱えている15歳~39歳までの若者に対し、キャリアコンサルタントなどによる専門的な相談、コミュニケーション訓練などによるステップアップ、協力企業への就労体験などにより、就労に向けた支援」(サポステHPより)を行っており、練馬区にも、認定特定非営利活動法人文化学習協同ネットワークが委託事業を行っている「ねりまサポートステーション」がある。 

 それに対して、少年サポートセンターが就労に関して具体的にどのような支援策を実施しているのかについての情報はあまりないが、今後は警察も非行少年の就労支援に一定の役割を果たすことが期待される。

  非行少年の場合、再犯防止計画でも、親のいる家が「居場所」として考えられており、そのため、非行少年は「居場所」があることが前提となっている。けれども、特に女子少年の場合、性被害を含む児童虐待の被害者である可能性は高く、家が「居場所にならない」ことが少なくない。非行少年たちに安心・安全な「居場所」を提供するのは、児童相談所等児童福祉の義務であるが、「非行」少年になった途端、児童相談所は「手を引く」ことが少なくない。しかも、1516歳以上の場合、新たな「居場所」を見つけるのはそう簡単ではない。

 その意味で、非行少年の「居場所」についてもさらなる支援策が必要である。

  

就学支援について

  非行少年に関しては、「学校等と連携した就学支援の実施等の取組」が最も関連している施策である。高卒認定ではなく、高校卒業の資格を有しているかどうかが非行少年の立ち直り支援に決定的な役割を果たす。アメリカワシントン州の少年院でも、少年院在院中に高卒の資格が取れるように工夫されている。その意味では、少年院を高等学校と位置づけ、そこでの勉学によって高卒の資格が取れるといったラディカルな施策が本来なら実施されるべきである。しかし、今回の就学支援策もそこまではいかず、残念ながらそれぞれの努力にゆだねるにとどまっている。 

 まず、「非行等による学校教育の中断の防止等」においては、「非行防止教室の実施等」を通じて「保護司と学校等の日常的な連携・協力体制の構築」の必要性が指摘されている。矯正施設に収容された非行少年の中ではさらに具体的な就学支援策が展開されている。 

 「通信制高校に在籍し、又は入学を希望する矯正施設在所者が、在所中も学習を継続しやすくなるよう、文部科学省の協力を得て、在所中の面接指導(中略)の実施手続等を関係者に周知するなど、通信制高校からの中退を防止し、又は在所中の入学を促進するための取組の充実を図る。」としている。また、従来から矯正施設が力を入れてきた高等学校卒業程度認定試験についても、外部講師の招聘等を行うことで一層充実することが求められている。 

 もっとも重要なのは、「矯正施設からの進学・復学の支援」であるが、そこには、「学校の種類、就学援助や高等学校等就学支援金制度等の教育費負担軽減策に関する情報の提供」、「矯正施設における復学手続等の円滑化や高等学校等入学者選抜・編入学における配慮」のための各機関の連携事例周知の推進などが挙げられているにとどまる。社会においては、保護司等が協力して、「学校に在籍していない非行少年等が安心して修学することができる場所の確保を含めた修学支援を実施」するとしている。 

 保護司に対して具体的にどのようなことが求められているのかは、この計画だけでは明確ではないが、そもそも学校以外の修学の場所がほとんどない中、就労と就学をどのようなバランスで行うのかについても更なる検討が必要である。

 

おわりに

  これ以外にも、少年等の可塑性に注目した指導児童相談所や子ども・若者総合支援センター等も含めた関係諸機関との連携の強化や、非行少年に対する社会奉仕体験活動等への参加の促進、保護者との関係改善に向けた指導支援の充実などが挙げられている。

  加えて、現在法制審議会で議論されている、少年法の成人年齢の引下げを前提とした処遇の充実についても、答申を前提として必要な措置を講じるとしている。

  たとえ十分でなくても、非行少年に対して一定の施策の充実が期待できる。このような動きを背景として、保護司や保護司会が何をすべきかを議論する機会があればとの思いをもちつつ、とりあえずの非行少年に対する再犯防止計画の紹介としたい。

以上