特別寄稿(令和3年1月1日発行練馬区保護司會報第248号に掲載)

少年法はどう改正されるのか

後藤 弘子(第5分区保護司)                 千葉大学大学院専門法務研究科教授

 

「法制審議会の議論は、残念ながら年齢引下げ論が優勢となっている。日常的に非行少年に関わっている私たちは、年長少年が未成熟であること、引き続き少年としての支援が必要なことを知っている。そのことを前提に、法制審議会の議論を引き続き見守りたい。」

この文章は、令和211日発行の練馬保護司会報第245号に私が寄せた少年法改正に関する文章の最後である(注1。その法制審議会は、去る1029日、法務大臣からの諮問第103号に対する答申を行った。

そこでは、焦点となった年齢引き下げについて次のように述べている(注2

(1)  検察官は、18歳・19歳の若年者の全ての事件を家庭裁判所に送致する(現行法と同じ)。

(2)  但し、家庭裁判所が刑事処分が相当とする場合、及び、原則逆送により、短期1年以上の刑の事件は、検察官に逆送し、起訴強制により、検察官は起訴(公判請求)することになる。なお、不定期刑は適用されなくなる。

(3)  18歳・19歳の若年者には、虞犯は適用されない。

(4)  家庭裁判所は、逆送しない場合、①保護観察(6ヶ月)、②遵守事項違反がある場合に施設収容することができる保護観察、③施設収容を言い渡すことができる。

(5)  刑事事件の特則のうち、起訴強制、勾留の特例、取扱いの分離、家庭裁判所への移送は認めるが、不定期刑、換刑処分(注3の禁止、仮釈放の特例は認めない。

(6)  公判請求された場合には推知報道の対象とならない。

これを読んで、「少年の年齢が18歳に引き下げられなかった、よかった!」と思った方も少なくないのではないかと思う。でも本当にそうなのだろうか。

法制審議会では、少年年齢を18歳未満に引き下げることを前提として、1819歳の者には「新たな処分」を科すという構想が議論されていた。ただ、この案には日弁連の委員・幹事だけではなく、他の委員からも異論が出て、まとまる見通しは全く立たなかった。硬直状態で迎えた今年になって、動いたのは、政治家たちであった。

今年の730日に、与党・少年法検討プロジェクトチーム(以下「与党PT」という。)は、1819歳の者は、少年法の適用対象とし、その取扱いについて特別の規定を設けること、検察官が全件を家庭裁判所に送致し、家庭裁判所が調査をして処分を決するという従来の扱いは変えない、とする基本的考え方を明らかにした(注4

これを受けて、法制審議会少年法部会で、86日に「取りまとめに向けたたたき台」が公表され、最終的に上記の答申となった。

答申をよく読んでみると、与党PT1819歳の者を少年法の適用対象としているのと対照的に、少年法の対象と無条件になるかどうかまでは書かれていない。また、少年事件にとって最も特徴的である虞犯がその対象から外されている。また、1819歳に関しては、逆送が原則で、それがされない場合には、従来の保護処分ではなく、6か月と中途半端な保護観察、現行少年法でも可能な施設収容を前提とした保護観察、少年院でもなく刑務所でもない「施設」への収容を言い渡すとしている。

これらの提案からは、少年法が行ってきた1819歳の少年への手厚い支援ではなく、「成人でもなく少年でもない」中途半端な扱いですまそうとしているようにしか読むことができない。

また、逆送されて起訴されれば、推知報道の禁止(注5の対象からも外れる。この規定が導入されることで、報道機関の中には、18歳・19歳の重大事件については、逮捕時から実名・顔写真が報道される危険性も高まる。

結局、1819歳は、子どもでもなく、おとなでもないという中途半端な存在として、少年司法において軽んじられることになる。

 2022年の民法成人年齢の引き下げに合わせるために、次回の通常国会にも少年法の改正案が提案される。どのような条文になるかによって、今回の改正の評価が決まる。少しでも子どもとしての扱いが優先されるような条文になるように見守っていきたい。    

(注1)当会ホームページの「論文・講演記録等>後藤弘子教授「18歳、19歳は「おとな」か―法制審議会で議論されていること―」をご参照。

(注2)詳しくは、次の資料を参照。

http://www.moj.go.jp/content/001332182.pdf

(注3換刑処分とは、刑法181項を根拠とする罰則であり、罰金・科料を完納できない者に対して、罰金の場合は1日以上2年以下の期間、科料の場合は1日以上30日以下の期間、強制的に身体を拘禁し作業を課すこと(労役場留置)を内容とするものです。労役場は、罰金または科料を完納できない者を収容して労役に従事させる場所のことで、刑務所に付設されています。つまり、罰金・過料を支払えない場合に強制的に労働に従事させて、罰金・過料に代替させるものといえます。

(注4)詳しくは、次の資料を参照。

http://www.moj.go.jp/content/001329126.pdf

(注5推知報道の禁止とは、少年法61条(記事等の掲載の禁止)の「家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。」という条文に基づくものです。その趣旨は、犯罪を犯した少年が特定されることにより生じる弊害を防ぐもの、具体的には将来の社会復帰を妨げないことが目的とされています。今回の答申では、本文にあるように、一定の場合には禁止が解除されることになっています。

 

(注は、後藤氏の了解を得て、編集室で付しました。)