東京都における保護司の高齢化について


 高齢社会の到来は様々な分野で対応すべき課題を多く生じさせていますが、いずれも一筋縄ではいかないような問題が山積しているように思われます。

 このことは保護司の世界でも同様であり、保護司の高齢化(保護司定年は原則75歳)への対応が、保護司制度の維持に関して大きな課題になっています。この保護司高齢化に関する興味深いデータがあります。

 データは、令和3年度東京保護司代表者協議会で配布された資料に記載されたものです。以下、このデータを利用して、東京都における保護司高齢化の実情を見てみましょう。


まず、次の図表をご覧ください。

この図表は、平成元年、15年、31年における全国ベースでの「保護司の年齢層別構成比」を示すものです(出所:令和元年版犯罪白書第3編第1章第56(1)3-1-5-17図)。

 

この図表からは、平成元年から平成31年までの約30年間で40歳代と50歳代の保護司の割合が減少し、70歳以上の保護司の割合が増加してきたことが読み取れます。

平成31年現在、保護司の約33%は70歳以上が占めていることに加え、再任は76歳未満までとされていることから、今後数年でこれらの人々が退任することとなり、人員の更なる減少が懸念されるところです(高津戸 映「 減少・高齢化する保護司― 安定的確保のための取組 」(立法と調査2020.6No.42421頁)。高津戸氏は、「保護司の数は減少傾向にあり、高齢化が進んでいる。保護司候補者の確保も容易ではないのが現状である。」と指摘されている。

 

それでは、以上を踏まえて、さきのデータにより東京都の保護司高齢化の実情を見ていきます。

 

(文献)

●令和元年版犯罪白書第3編第1章第56(1)3-1-5-17図➡クリック

 

●高津戸 映「 減少・高齢化する保護司― 安定的確保のための取組 ―」(立法と調査2020.6No.424)➡クリック

 


(1)東京都の保護司数・年齢構成

まず、令和35月における東京都の保護司数です。

この図表を見ると、直近の保護司定足率(現員数/定数%)は、東京都全体は75.9%であり、第4ブロックでは、中野区83.3%、豊島区83%、板橋区65.2%、杉並区64.2%そして練馬区57.5%となっています。

この数字からは、定足率100%というのは現実的ではないことが感じられます。

女性比率は、充足数にはあまり関係ないようにも見えますが、ただ、女性保護司の増加を図ることは、保護司数増加のための大切な方策かも知れません。

 

次の図表は、東京都全体での保護司現員数と保護司定足率の12年間の推移を示すものです。これからも、保護司現員数と定足率がなだらかな減少傾向にあることが見て取れます。


(2)東京都の保護司の年齢構成

  この二つの図表は、保護司の年齢構成を示していますが、男女ともに高齢世代の割合つまり高齢化が進んでいることが良く分かります。

 60歳以上の保護司数は男67.6%、女72.0%、全体で69.1%とそれぞれで3分の2以上を占めています。

 このデータからは、男女で1,000人超の70歳以上保護司数の減少に見合う新任保護司の任命(増加)が重要な課題である、という事情が良く分かります。

次の平均年齢推移表によると、12年間の平均年齢はほぼ横ばいです。12年間で保護司数は329人減少していますが、これは単純に計算すれば年平均27人程度の減少です。

高齢者が退任し、若い世代が新任されると平均年齢は低下するとも考えられますが、一定の新任保護司の存在にもかかわらず平均年齢がほぼ横ばいということは、前述した「平成元年から平成31年までの約30年間で40歳代と50歳代の保護司の割合が減少し、70歳以上の保護司の割合が増加してきた」という事実を反映したものではないかと考えられます。

結論を急ぐべきではありませんが、63歳代の平均年齢で推移していることから、保護司の世界は、若い現役世代(50代・40代)が入りにくい世界(業務)なのかもしれません。


(3)東京都における保護司の新任・退任数

この図表は、平成24年から9年間の新任保護司と退任保護司の数を示しています。このように比べてみると、両者のバランスはある程度維持されており、この状況を維持できれば、上記(2)で見た新任保護司の獲得という重要課題もそう悲観的ではないように見えます。

しかしながら、平均年齢が低下していかない限りは、増と減の「いたちごっこ」の状況はなかなか解消できそうにありません。

次の図は、令和3年からの10年間で任期満了を迎える保護司(現在66歳以上の保護司が該当)の数を示したものです。最初のものが練馬保護区の状況、二つ目が東京都全体と第4ブロの状況です。

 

新任保護司をゼロとした場合の10年後の現員数が合計②になりますが、残念ながら練馬保護区では保護司の数が半分以下になるという結果です。この結果は特例再任の保護司数を考慮していませんが、大勢に影響はないと考えられます。

しかし、10年間新任保護司ゼロということはないでしょうから、図表の毎年の退任者数を見る限り、大幅な増加は見込めないとしても現状の維持は可能と考えられます。


最後に

以上、保護司高齢化の実情と今後の保護司数の推移を見てきましたが、東京保護観察所の「令和3年度更生保護行政の重点事項」では、その業務重点事項2として「緊急行動宣言を踏まえた保護司適任者確保の推進」が掲げられています。

具体的には、保護司減少に歯止めをかけるため、令和22月発出された「保護司の適任者確保のための緊急行動宣言」に基づき、保護司組織と十分に協議、連携し、創意工夫した実効性のある取組を推進するものとされており、とりわけ令和3年度においては、60歳以上の保護司が約8割を占める現状に鑑み、持続可能な保護司制度を構築するため、60歳未満の若年者の保護司適任者確保に重点的に取り組むもの、とされています。

 (広報部 澤 重信 2021.8.21記)

 


○保護司の人員・年齢構成等の現状把握については、「更生保護ボランティア」に関する実態調査-保護司を中心として- 結果報告書:第 2 実態調査結果>1 更生保護及び保護司をめぐる状況>ウ 保護司の概要」(11-19頁)」が大変役立ちます。 ➡ここをクリック