「更生保護ボランティア」に関する実態調査と総務省勧告について

広報部


はじめに

2021131日の日本経済新聞WEB版「社会・くらし」に「保護司減少、法務省に人材確保を勧告 総務省」という記事がありました。この記事は、「総務省行政評価局は31日までに、刑務所を仮出所した人や保護観察中の少年らの立ち直りを支援する保護司が減少を続けているとして、人材確保を支援するよう法務省に勧告した。経験不足の保護司が早期に退任する例もあり、後進育成を徹底することも求めた。」となっています。「えっ、保護司減少でどうして勧告なの!?」と疑問に感じたので、調べてみました。

この総務省勧告は、同省が実施した「「更生保護ボランティア」に関する実態調査-保護司を中心として-」(以下「実態調査」といいます。)の結果に基づくものでした。総務省は、令和3129日、「「更生保護ボランティア」に関する実態調査-保護司を中心として-<結果に基づく勧告>」という報道資料を公表し、同省ホームページに掲示しました。そこには、実態調査の結果報告書226頁。以下「本報告書」といいます。)、本報告書の「ポイント」(1頁。以下「本ポイント」といいます。)及び本報告書の「概要(8頁。以下「本概要」といいます。)が掲載されています。これらの資料は同ページからダウンロードできますので、興味ある方はご覧ください。本報告書の内容は、アンケート等に基づく保護司活動に関する現状をデータと共に分かり易くまとめてあり、読み物としても楽しめるものです。

なお、この実態調査は、平成3012月~令和31月を実施期間、調査等対象機関を法務省、都道府県(16)、市町村(63)、保護司会(68)、保護司(136)、保護司アンケート(有効回収数4,001人、回収率85.1%)として実施されたものです。

 

 

1.実態調査の背景・目的

 

実態調査がなされた背景は本報告書前書きに記されていますが、要約すると概ね次のとおりです。詳細な背景については、本報告書「第2 実態調査結果」の「1 更生保護及び保護司をめぐる状況」(2頁~20頁)をご覧ください。 

  のような背景を踏まえてなされた本実態調査の目的は、本報告書1頁「第1 実態調査の目的等」に、次のように記載してあります。

 これは、保護司が果たしている役割の重要性を踏まえつつ、保護司制度が将来にわたって持続可能なものとなるよう、基本的指針(平成263月「保護司の安定的確保に関する基本的指針」)に基づき進められている取組等に関して、保護司活動に対する指導・支援の充実及び保護司の担い手の安定的な確保を図る観点から、保護司活動の実施状況、国による保護司への指導・支援の実施状況、保護司活動に関する都道府県・市町村との連携の状況等を調査し、関係行政の改善に資することを目的としています(本報告書「前書き」より)。

 

.実態調査に基づく調査結果・分析

 

前記の背景・目的に基づきなされた本実態調査ですが、その調査結果・分析は、本報告書「第2 実態調査結果」の「3 調査結果及び分析等」にまとめられていますが、その構成は次のとおりです

これから分かるように、本実態調査の結果は、調査目的にある「保護司活動に対する指導・支援の充実及び保護司の担い手の安定的な確保を図る観点」に照らして、「(1)保護司活動に対する指導・支援に関する取組」及び「(2)担い手確保に関する取組」の二つに大分類され、さらに幾つかの中分類と小分類がなされています。この分類に基づき、本ポイントには、「調査結果のポイント」及び「勧告のポイント」が次のように記載されています。この関係が、次の総務大臣から法務大臣に対する勧告になっていきます。

 

.総務大臣から法務大臣に対する勧告

 

 総務省は、前掲の「勧告のポイント」に基づき、次の5勧告をまとめています。

 勧告①から勧告⑤は、「保護司活動に対する指導・支援の充実」と「保護司の担い手の安定的な確保」に対応するものであり、勧告①は保護司育成に係る勧告、勧告②③は保護司の活動環境の整備に係る勧告、勧告④⑤は保護司候補者の確保のための方策に係る勧告となっています

 いずれもこれまで練馬区保護司会 (当会)や第四ブロック保護司組織連絡協議会(中野区・杉並区・豊島区・板橋区・練馬区)等の場で、たびたびテーマとなった項目といえます。ちなみに令和2年度第四ブロック保護司組織連絡協議会では、適任人材の登用等の「組織運営の在り方」、「保護司の育成」及び「地域の関係機関・団体との組織的連携」が協議事項となっていました。

勧告としては5つありますが、以下では、勧告②と勧告④について概観してみます。

 

.勧告②「保護観察対象者との面接場所の確保支援」について(本報告書166頁)

 

本勧告は、保護観察対象者との面接場所の確保に関するものです。自宅での面接に関しては、薬物や精神疾患など、複雑・多様な問題を抱えた対象者等を自宅に招き入れることについて家族の理解が得られないケースや、マンションなど居宅の構造上自宅での面接が困難な者が増加していることが保護司確保を困難にしている大きな要因の一つであることは既に指摘されていたところです。今回の実態調査でも、「自宅以外の場所で面接を行うことがある保護司は多い。その理由として、自宅を面接場所にする際に感じる不安や負担感を挙げる者が少なくない。」、また「自宅以外の面接場所の確保に関する不安や負担を感じている」という実情が浮き彫りになっています(本報告書5868)

また、保護司の処遇活動に対する支援や犯罪予防活動を行うための地域活動拠点として設置されているサポートセンター(令和元年度末現在、全保護司会がサポートセンターを設置済み)の利用についても、「保護司の約7割は、対象者との面接でサポートセンターを利用していない。」という結果になっています。その理由として「自宅等から遠い」(7)、「夜間や土日祝日に利用できない」が挙げられており、サポートセンターの設置場所や開所時間と保護司の実際の活動とが、必ずしもマッチしていないことが示されています(本報告書6877)。このような結果については、当会でも同様の状況がみられるかと思います。

このように、保護司は犯罪をした人等との面接場所の確保に苦労していること、設置されたサポートセンターの面接利用が低調なことなどから、保護司のニーズに応じて、自宅以外の面接場所を確保する取組を推進するために本勧告がなされたと考えられます。

しかし、対象者のプライバシー等を確保しながら適切に面接できる利便性のある場所としていかなる場所が現実に存在しているのか、それがあるとして対象者と調整をして決めた日時(ドタキャンや急な変更あり)に円滑に対応し利用できる(確保できる)のか、といった具体的な話になるとかなりの困難が伴うように思われます。そうはいっても自宅やサポートセンター以外に面接場所を確保できることは、たとえそれが理想的なものでなくとも、保護司活動にとって大きな支援になると思われます。

 

当会では、練馬区に対して区関係施設の利用をお願いしてまいりましたが、これまで幾つかのご提案をいただき、その結果、複数施設を利用できることが可能になっています。個室の利用が可能な施設もあり、当会としても積極的に活用していくことが大事になってくるかと思われます。

本実態調査を踏まえての面接場所確保支援に係る総務省の所見(勧告)は、次のように纏められています(本報告書167頁)

 

.勧告④について(本報告書168頁)

 

本勧告は、保護司候補者検討協議会に係るものです。保護司候補者の確保が従来の方法(個々の保護司の人脈を活用して保護司候補者に関する情報を集め、退任予定保護司の後任者を探し出す方法など)では困難となっている状況に対処するため、保護司候補者検討協議会(以下「協議会」といいます。)の設置が促進されています。協議会では、地域で活動する町内会関係者や民生委員・児童委員、地方自治体関係者など幅広い分野から選ばれた構成員が、保護司候補者になり得る人材情報の収集及び交換を行います(協議会の概要は本報告書114-115頁参照)

本勧告では、保護観察所が保護司会に対して、協議会の効果的な開催のための情報提供を要請するものであり、その際には、協議会の開催事例を分析し、開催単位についての考え方等も示すべきであるとするものです。担い手確保のための方策に関して、協議会の開催単位を細かくした方がより効果があることから、協議会の効果的な開催のための情報を保護司会に提供することなどについて勧告がなされています。

これは、本実態調査において、協議会の開催には、保護司候補者の確保に一定の効果があること(例えば、16保護司会では、協議会で情報提供を受けた候補者からの委嘱が新規委嘱した数の5割以上等)及び保護区より小さな単位で開催している場合に情報が多く得られ、保護司候補者の確保につながっている例があること等が確認されたことを踏まえてのものと考えられます。保護司の数を増やすためには適任候補者の発見が第一歩ですが、高齢化が進み、今後退任者が増加していくことを考えると(本報告書12-13頁参照)、本勧告の意図するところはとても重要であると考えられます。

なお、未開催保護司会からは、協議会を開催することで担い手が確保できるのかといった疑問や、事務負担が大きくなることへの懸念もあったとのことです。

 

勧告④に係る総務省の所見は、次のとおりです(本報告書169頁)。

 

.その他の勧告について

 

 説明を省略した前記以外の勧告、すなわち担当保護司の複数指名(勧告①。本報告書165頁)、報告書に係る情報技術の活用(勧告③。本報告書167頁)及び市町村等との協力(勧告⑤。本報告書169頁)も重要な事項です。

勧告①は、経験の浅い保護司の支援策等としては有効と思われますが、実例は少ないようです。ただ、対象者の類型によっては効果的なケースがあると思われます。勧告③については、セキュリティー、機器の整備、個々の保護司のAIスキル等の問題はありますが、実現すれば事務の省力化・合理化が期待できそうです。勧告⑤は、今後の重要なテーマですが、当会ではすでに練馬区との連携を進めています。また、初めてですが、令和3年4月には練馬区校長会に出席できる予定です。

 

おわりに

 

総務省による今回の勧告内容は、いずれもすでにその対応の重要性は認識されていたものと思われます。しかし、その具体化となるとやはりそれなりの困難が伴うものであって、このことが今回の勧告に繋がったのではないかとも言えそうです。

この勧告を受けて法務省におかれてどのような方針・対応を示されるのかまだ不明なところですが、当会としては、東京保護観察所の指導・支援等を受けながら、適切な対応に向けて活動を行っていくことになると考えられます。

以上

(広報部 澤 重信)

 

()文中意見にわたる箇所は執筆者の個人的なものであり、当会の正式な見解ではないことをお断りいたします。本記事の紹介記事を練馬保護司會報第249号に掲載しています。

<参考資料>参議院常任委員会調査室・特別調査室「立法と調査 2020. 6 No. 42419頁以下に「減少・高齢化する保護司-安定的確保のための取組-」(高津戸 映・法務委員会調査室)という論文がありますので、ご紹介します。興味のある方はご覧ください。